人間になった魚

 

 

 

かーし、あるところに、仙人とたくさんのアゲハ蝶が、高い山に住んでいた。 そこに一人の男の子がよろよろとやってきた。 男の子は目が見えず、杖をついている。 体も怪我をして、あっちこっちから血が出ている。 地面には大きな石や、小さな石がゴロゴロあり、とても長くは歩けそうになかった。 

 そんな男の子を、さっきからじーっと見ている、一匹の大トカゲが、ヒュルヒュルと舌を出しながら狙っていた。 ついに男の子は、大きな石の上にドサッと倒れた。それを見ていた大トカゲは、すごい勢いで、飛び出した。  しかし、見ていたのは、大トカゲだけじゃなく、ハゲタカもいて、飛んできた。 二匹は、土煙がもうもうと上がる、凄い戦いを始めた。 ところが、そこにひょこひょこと、オオカミがやってきて、ずるずるーっと男の子を引きずって、行ってしまった。 
 

ごい土煙の中から、戦いにやっと勝った、大トカゲが出てきて、石の上を見ると、いない!男の子がいない! 大トカゲは、あきらめ悪く、ひくひくと匂いをかぎながら、後を追いかけた。 ハゲタカは、頭に5つのタンコブと、尻尾の羽が全部なくなって、足の短いダチョウのような、変な鳥になってしまって、両方の翼の羽も雨漏りがするぐらい抜けて、飛ぶことができない。 それでも翼を広げないと、すぐに転んでしまう。 ずるずる、よたよた、ずぼーっと岩の割れ目にはまって、気を失ってしまった。 一方の大トカゲは、やっとオオカミに追いつき、またしても戦いが始まろうとした時、誰かにいきなり杖で、ひっぱたかれた。

ぅおらー、その少年は、このわしに会いに来たんじゃぞー。このどあほどもー。” そこには、顔を真っ赤にし、頭からは湯気を何本もたてている、仙人が立っていた。 二匹は、急いで尻尾を丸めて、さっさと逃げようとした。 ところが、”ちょっとまてぃー、せっかくだから、わしの所まで運ばんかい。おっことすでねーぞぃ。” 人使いが荒く、けちで怒りんぼ、そのうえ大酒のみ・・・だけど動物達の怪我や、病気をあっという間に治してしまう。 だから、たいていの動物は、仙人の言うことはよく聞いた。 

 そんな訳で二匹は交代で、男の子を担いで、仙人の家まで運び、すごすごと帰っていった。 大トカゲは、”今日はついてない一日だったなー。”と、少しイライラしていた。 ふと足下を見ると、ハゲタカがまだ気を失って寝てるではないか! そのとたん、大トカゲは、おもいっきり尻尾でヒッパタイテ逃げていった。 そのおかげで、ハゲタカは、目を覚ますことができた。 
           
 ”なっ、なっんだ、何でこんな所に俺がいるんだ?”よっこらせと、岩の割れ目から這い出て、自分の姿を見た途端、”おー、おれの尻尾、俺の尻尾がなーい、俺の尻尾やーい。”と、3日間も泣きわめいたので、すっかり頭がはげてしまった。 それで、今もはげているのだ。

のころ、少年は仙人のおかげで、怪我はすっかり治っていた。 仙人の肩たたきから始まって、炊事、洗濯、掃除、薪割り、自分から先にどんどん仕事をしてしまう。 目も見えないのに、毎日楽しそうに少年はやっていた。 さすがの仙人も一言も言えず、いつもの元気が出ない。 でも仙人は、少年が、とっても好きになり始めていた。 その証拠に少年を呼び、”お前に、名前を付けてやろう。わしの名を知ってるか?” ”はい、白龍仙人様です。”  ”ふーむ、そうじゃ。わしの名の白と、お前は元は魚だったのでの、白尾にするぞ、よいな。”  ”白尾ですか! ありがとうございます。” 

 
 ”ところで、白尾そろそろ決めねばなるまいのー。元の魚に戻るか、それとも目が見える人間になるか、な。”  ”はい、目が見える人間になりたくて、ここまで来たのです。どうか人間にしてください。お願いします。”  ”目が見えたら、どうするんじゃな?”  ”はい、できる事なら仙人様の弟子にしていただけませんか?”  ”よかろー、じゃが一寸ばかし、お前を試すぞ。まずは、目を創るとするかな、おーこの緑の石と、白い石これがいいな、どーれどれ。” そう言って仙人は、白尾の目を創って入れてみた。 ”どおーじゃな、よく見えるかな?”  ”うひょーまぶしー、あーー見える。これが、人間の世界かー。”

然ピカーと、稲光が走り、大風が吹いて、白尾を襲ってきた。 まるで、木々が、藻や、昆布みたく大きく激しく揺れ動くのを見て、海の中にいる錯覚を感じ、海にいたときのことを思い出していた。  ”僕はいゃだ、逃げるだけでいつ食われてしまうかわからない暮らしは、もういやだ。だから、イカの魔女ズールに頼んで、やっと人間にしてもらった。 僕の目と引き換えに。そして、運がよければ、白竜仙人に目を創ってもらえると、その時に聞かされたんだ。

 
 海から出てここまで来るのに、3年かかった。 白龍仙人様に、僕が魚だったときの鱗を渡せば、目を創ってくれると。 それを亀爺さんに聞いて、大切にしていた。途中でオオカミが、”白龍仙人のところまで連れて行ってあげるから、お前の鱗を一枚よこしな。 なんでもお前の鱗は金色で、持ってるだけで海の中を息もせずにスイ、スーイと泳げる、と言うじゃねえか。俺はな一度でいいから、海の中を潜ってみたいんだ。”そのオオカミの言葉にだまされて、5枚あった鱗全部、取られて、崖から突き落とされたんだ。” 

ーん、そうであったか。よーく来たなー。さあ、それでは、修行を始めるぞ!!”それから、500年、白尾は、仙人の修行を朝早くから、夜遅くまでした。 今では仙人と同じか、いや、それ以上かも知れない。そんなある日のことだ。 


 ”もう白尾に教える事はない。よく辛抱して、よく覚えたものよ。 本当に感心したぞ! さて、今だから言おう。 実はな、お前がここに来る途中で、オオカミに会ったろう、ほら鱗を全部取って、お前を崖から突き落としたあのにっくきオオカミさ、あれは、わしじゃよ。 わしの跡を継いで仙人になるには、相応しいか、お前を試したのじゃ、恨むでないぞ。 そうじゃ、お前の鱗を返しておくぞ。 どーしてもお前の力だけでは、どうにもならない時に、空に向かって投げるのじゃ。 ふーむそろそろお別れじゃ、今後はお前がわしの代わりに、動物達の面倒をみなさい。 それでは、さらばじゃ!!

 
 ”バチバチッすごい火花が散ったと思うと、一匹の白い龍が現れた。”達者で暮らせよ、白尾、いつでも見守っているぞ!”と、言うと夜空に向かって、ゆっくりと昇っていった。 白尾の回りには、アゲハ蝶が金色に光り輝いていた。 白尾は、いつまでも、いつまでも白い龍を見送った。  ”ありがとうございました、お師匠様。”       これでおしめいだぞい・・・。